SSブログ

蜘蛛の糸 [地域のこと]

Z61_7154.jpg

ある日の事でございます。

御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。
池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、
そのまん中にある金色の蕊からは、
何とも云えない好い匂いが、絶間なくあたりへ溢れて居ります。

極楽は丁度朝なのでございましょう。


Z61_7189.jpg

やがて御釈迦様はその池のふちに御佇みになって、
水の面を蔽っている蓮の葉の間から、ふと下の容子を御覧になりました。
この極楽の蓮池の下は、丁度地獄の底に当って居りますから、
水晶のような水を透き徹して、
三途の河や針の山の景色が、丁度覗のぞき眼鏡を見るように、はっきりと見えるのでございます。


(中略)


Z62_1109.jpg


御釈迦様さまは極楽の蓮池のふちに立って、
この一部始終をじっと見ていらっしゃいましたが、
やがてかん陀多が血の池の底へ石のように沈んでしまいますと、
悲しそうな御顔をなさりながら、またぶらぶら御歩きになり始めました。

自分ばかり地獄からぬけ出そうとする、かん陀多の無慈悲な心が、
そうしてその心相当な罰をうけて、元の地獄へ落ちてしまったのが、御釈迦様の御目から見ると、浅間しく思召されたのでございましょう。

しかし極楽の蓮池の蓮は、少しもそんな事には頓着致しません。
その玉のような白い花は、
御釈迦様の御足のまわりに、ゆらゆら萼を動かして、そのまん中にある金色の蕊からは、
何とも云えない好よい匂が、絶間たえまなくあたりへ溢れて居ります。

極楽ももう午に近くなったのでございましょう。



出典:青空文庫 蜘蛛の糸 芥川龍之介





nice!(38)  コメント(5) 

nice! 38

コメント 5

hagemaizo

写真も文章も音楽も世界の息苦しさを和らげて来れたのでした。
サステナブルを語る嘘つきどもは舌噛んだた。
by hagemaizo (2022-07-23 18:53) 

そらへい

極楽も地獄も見たことがありませんが
極楽はこの写真のようなものかと思わせますね。
by そらへい (2022-07-23 20:56) 

kyon

桑田さんの歌でこれにメロディをつけたものがあるんです。
他にも人間失格や汚れっちまった悲しみに、なんかもあります。
by kyon (2022-07-24 00:24) 

夏炉冬扇

南無阿弥陀仏
by 夏炉冬扇 (2022-07-24 06:33) 

しばちゃん2cv

hagemaizo様
ぷっ(笑)
スマホで記事を編集したら何故か「続きを読む」が消えてしまいました

そらへい様
記事と写真がなんとなくあってますね

kyon様
40余年の音楽人生の中で、いろんな曲を聴いてきましたが、Jpopでは桑田とヤザワはどうしても心の琴線に響きません。

夏炉冬扇様
合掌

by しばちゃん2cv (2022-07-24 17:22) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。